2種類の酸化物ナノ微粒子を噴霧熱分解法で合成
国立研究開発法人 産業技術総合研究所の研究グループは、水素を合成する固体酸化物形電解セルに用いる粒子について、高温電解電流密度を飛躍的に向上させる酸化物ナノ複合化陽極材料を開発したことを発表した。
水素社会の実現に向け、水を電気分解して水素を合成する技術の開発が進められており、中でも固体酸化物形電解セル(以下、SOEC)による水電解は、水素製造に必要なエネルギーを従来の技術よりも20%~30%削減できる点や、白金などの貴金属電極が不要などの利点もあるものの、セル面積あたりの水素製造量(合成速度)が少ないという課題があった。
今回の研究では、SOECで高温水蒸気電解を行うのに使用するために、サマリウムストロンチウムコバルタイト(SSC)とサマリウム添加セリア(SDC)の一次粒子をナノレベルで均質化させたナノ複合構造の二次粒子について、噴霧熱分解法による製造プロセスで合成することに成功した。
この二次粒子である酸化物ナノ複合粒子内には電子とイオンそれぞれの伝導経路が構成されており、広い反応場と高い電気伝導性を示すことから、高温水蒸気電解にあたり、電解電流密度は2.3 A/cm2(750度、電解電圧1.3 V)となった。
さらに、セル面積あたりの電解水素の合成速度も、高分子形の水電解での合成速度と比較して2倍以上を達成し、電解セルのコンパクト化に貢献できる可能性を示した結果となった。
水素社会の実現に向け貢献
研究ではまず、SOECの電解電流密度を飛躍的に増加させる高性能陽極として、高電子伝導性のペロブスカイト型構造材料SSCと高イオン伝導性材料のSDCをナノメートルレベルの一次粒子とし、両者が均質な三次元ネットワークを構成する酸化物ナノ複合構造の二次粒子を設計した。
しかし、SSC自体イオン伝導性を持つことや、他のイオン伝導性材料と複合化すると、電極内のSSCのネットワークが途切れ電子伝導率が低下してしまうなどの課題があった。
これに対し、今回、マイクロ構造による電極内の電子伝導経路を構築して、SSC自体の電子伝導率を低下させることなく、ナノ構造により二次粒子内にイオンの伝導経路を構築して電極の反応点数を大幅に拡大させたため、電極性能が著しく向上したものである。
今回開発した材料を陽極として用いたSOECの電解電流密度は、実用化の目安を上回っており、水素ステーション用などの水素製造装置に適用でき、電解装置を従来よりもコンパクトにすることも可能だ。また、これにより大量の水素製造が可能になることで、再生可能エネルギーを活用した水素製造時のコストを低減でき、社会的に急務となっている水素社会の実現の促進に貢献できる。
産業技術総合研究所では、今後は、開発したナノ複合化陽極を、実用サイズ・形状のSOECに適用して実証試験を行うなど実用化に向けた研究開発を行い、水素社会の実現に貢献する電力貯蔵技術として、高効率・低コストの高温水電解システムの実現を目指す意向を示している。
(画像はプレスリリースより)

国立研究開発法人 産業技術総合研究所
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