単結晶なみの歩留まりと特性を実現
科学技術振興機構(以下、JST)は、文部科学省 革新的エネルギー研究開発拠点形成事業(JST受託事業)の中で、JSTの中嶋一雄研究チームリーダーらが、生産性の高いキャスト成長炉で作製したシリコン単結晶インゴット(ある程度の容積を有する結晶のブロック)を用いて太陽電池を製作し、19.14%という高い変換効率を、高い歩留まりで実現したことを発表した。
この変換効率は、従来法のCZ単結晶インゴットを用いた太陽電池と同等であり、世界初の成果である。
メガソーラー向けの太陽電池に使われるシリコンは、多結晶は単結晶より変換効率が劣るものの、キャスト法を使うため高い生産性が得られ低コストであるため、多結晶を使ったものが主流となっている。そこで、生産性の高いキャスト成長炉で現行の単結晶なみの歩留まりと特性が実現できれば、単結晶が市場で主流になると見込まれる。
今回の研究では、NOC法という新しいキャスト成長炉を用いて単結晶を作製し、現行の単結晶の太陽電池特性や歩留まりと同等の特性を世界で初めて得たものである。
成長炉の課題を克服
NOC法とは、従来のキャスト成長法が石英ルツボに入れたシリコン融掖を一方向凝固させるため、成長したインゴット結晶内に大きな残留歪みが存在する点に注目し、ルツボ壁に触れないでシリコン融液内でインゴット単結晶を成長できるように開発した方法である。
使用する成長炉には、「不純物の低減」「結晶内転位の低減」「酸素濃度の低減」という3つの課題があった。
研究チームは、まず、「不純物の低減」に関して、炉の内容物であるグラファイト冶具をすべて真空中で長時間高温空焼きし、主な汚染物質である鉄不純物の除去を行った。
「結晶内転位の低減」に関しては、結晶の引き上げ速度と回転速度を極力遅くし、成長方向に凸の形状を有するインゴット単結晶を作製し、インゴット単結晶内の転位が成長するにつれて結晶外で排出される手法を採用した。
さらに「酸素濃度の低減」に関しては、成長中のインゴット単結晶の回転速度を1rpmと小さくし、ルツボ回転速度も0.5rpmと小さく、しかも結晶と同方向の回転とすることで、シリコン融液内の対流を減らし、シリコン融液と石英ルツボ壁との溶解反応を抑え、酸素がシリコン融液に入るのを防ぎ、酸素濃度を常に低く保つことが可能となった。
今後は、大きなルツボを使用して大容量のシリコンインゴット単結晶を作製することであり、これが実現すれば、この技術が太陽電池用シリコンインゴット製造方法の主流となることが期待される。
(画像はプレスリリースより)

国立研究開発法人 科学技術振興機構
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